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No.MW009
澁谷 知美
TOMOMI SHIBUYA
第9代マスター・オブ・ウイスキー。
東京都生まれ。錦糸町南口「Bar Portree」バーテンダー。23歳のときに飲んだクライヌリッシュ23年に衝撃を受け、ウイスキーに魅了される。自身のブログ「ポートリーの港町より」でウイスキーの楽しさや店の情報を発信している。現在は雑誌『Whisky Galore』のテイスターとしても活動中。
- 4回目の挑戦。平成最後のマスター・オブ・ウイスキー
- 平成最後のマスター・オブ・ウイスキー試験で誕生した9人目のマスター・オブ・ウイスキー(以下、MW)が澁谷知美さん。ガロア読者には、「ザ・テイスティング」のテイスターとしておなじみだろう。「最初に合格の知らせを聞いた時は、からかわれているのかと思って何度も確認しました。そしてやっと肩の荷が下りました」。澁谷さんもまた4回目の挑戦での合格だった。
- 心に引っかかっていたMWの試験をもう一度
- そこまで合格にこだわったのは、数年前に友人が亡くなったことが大きく関係している。「2011年に初めて受験したのですが不合格で、ショックで数年間あきらめていたんです。『論文が通らないから仕方ない』と周囲に言い訳していたけれど、そんな時に友人が亡くなって。その友人にも『知美は愚痴ばっかかりだ』と怒られていたこともあり、心に引っかかっていたMWの試験を、もう一回頑張ろうと思いました」
- 歴史をひもとき、現状分析、さらに100名アンケート
- 論文のテーマは自分自身が飽きないテーマを選ぶところからスタートしたという。「食べることは飽きずに好きなので、『食中酒としてのハイボールの将来』というテーマで論文を書きました」。 論文ではハイボールの歴史をひもとき、現状を分析すると同時に、100名近くの人々にアンケートを取って論文に活用。論文にも添付した。「酔っている人に書いてもらうので、どういう言葉だったら答えてくれるのか、お店のスタッフや先輩、後輩などにアドバイスをもらいました」。2018年初めから論文作成に取りかかり、書きだしが浮かんだ時点から2~3ヵ月で一気に仕上げたという。 「MWの鈴木勝二さんの論文は公開されているので、何度も鈴木さんの論文を読んで、『同じ人間なんだから、私にもできるだろう』と自分を奮い立たせて頑張りました。女性第一号の森田規代子さんにも、試験で一緒になった時にいろいろとお話をうかがって、真似できる部分は真似したりしました」
- 3分間の砂時計が落ちる前に
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MW試験は論文だけでなく、2次試験として筆記試験と口頭試問、官能試験が行われるが、今回、澁谷さんは筆記試験は歴代最高得点だった。「筆記試験は土屋さんの本を何度も読んでいるので比較的自信がありました。一方で口頭諮問は苦手でした。なのでお客様に相談させてもらい、どこに気をつけたらいいか、人前でどうしたらうまく話せるかなどアドバイスをいただきました」。実際のところ、当日は頭が真っ白になってしまった、と笑うが、官能試験では事前練習を重ね、余裕すらあったそう。
「3分間の砂時計が落ちる前に解説する練習を重ねていました。その成果もあり、10分間の試験時間の中で、最初の5分で自分なりの答えを出したのですが、残りの5分でもう一度確認する時間を作れました。その時にアメリカンウイスキーなのにスコッチだと答えていたことに気付き、もう一度確認することで正しい答えを導き出すことができたんです」 - 勉強する楽しさを味わえるのが、この資格の醍醐味
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晴れてMWとなり、今後はもう少し自信を持って活動していきたいと語る。「テイスターもそうですし、座談会でも自分の意見をしっかり言えるように頑張りたいです。また論文を書いて、文章を書くことに目覚めたので、今後の目標は自分の文章を書くことです。店のブログを始めたので、まずはここから。歴史を知ると、味わいの深みが増して、勉強する楽しさを味わえるのが、この資格の醍醐味。あきらめなければ絶対に取れると思いますので、ぜひ挑戦してほしいなと思います」
澁谷さんが働くバーポートリーは今年5月に1周年を迎えた。「ポートリー」はスカイ島の港町の名前。『王様の港』という意味もあります。新たに始めたブログでウイスキーの楽しさや店の情報を発信していきたいです。
『ウイスキーガロア』Vol.14/P.87より引用